【賃料増額阻止】定期借家の賃料増額は普通借家と違う|契約期間中と再契約時の注意点

「来月から賃料を2割上げたい」――そんな通知が、店舗や事務所を借りる企業に届くケースが増えています。

中でも対応が難しいのが、定期建物賃貸借契約(定期借家)です。更新がなく、契約の内容次第では普通の賃貸借契約と同じ考え方が通用しないため、「話し合いの余地はない」と諦めてしまう方も少なくありません。

本記事では、定期借家で賃料増額を求められたときに確認すべきことを、「契約期間中」と「契約満了(再契約)時」に分けて、チェックリスト・工程表と事例で解説します。

 

賃貸人からの賃料増額の要請が増えています

地価と賃料相場の上昇を背景に、賃貸人が賃料の引き上げを求める動きが広がっています。

  • 地価は5年連続で上昇:2026年の公示地価は、全用途の全国平均で前年比8%上昇し、5年連続の上昇となりました。
  • 都心のオフィス賃料は前年比2%上昇:クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドの調査では、東京都心5区のグレードAオフィスの想定成約賃料は2026年第3四半期に坪当たり45,139円となり、空室率は0.3%まで低下しています。
  • 入居中のテナントの賃料も過去最高に:ザイマックス不動産総合研究所によると、東京23区のオフィスで既存テナントを含む「支払賃料インデックス」は2026年第2四半期に116となり、前期に続いて調査開始以来の最高値を更新しました。賃料の引き上げ交渉が活発になり、改定に応じるテナントも増えていると分析されています。

レントプロにも、「賃貸人から増額の通知が届いた」というご相談が増えています。本記事でご紹介する2件も、いずれも約20%の増額を求められたケースです。

 

定期借家は、増額への対応が特に難しい契約です

普通の賃貸借契約(普通借家)であれば、賃料の増減は借地借家法32条に基づき、経済事情の変動や周辺相場との比較などを踏まえて判断されます。また、賃貸人が更新を拒むには「正当事由」が必要です。増額の通知への基本的な対策は、「家賃が上がる」と言われたときの3つの対策でも解説しています。

これに対して定期借家は、借主にとって不利になりやすい仕組みが重なっています。

項目

普通借家

定期借家

契約の更新

更新が前提。賃貸人が拒むには正当事由が必要

更新なし。続けるには「再契約」(新しい契約)が必要

契約期間中の賃料改定

借地借家法32条に基づき判断

賃料改定の特約があれば、32条は適用されない

満了時の賃料

更新時も、増額には32条の要件が必要

再契約の条件は賃貸人が自由に提示できる

中途解約

契約の定めによる

解約できない、または違約金が重いことが多い

 

具体的には、次の4点が対応を難しくしています。

  1. 契約の更新がない:契約は期間満了で終了します。引き続き借りるには再契約が必要で、賃貸人は再契約に応じないこともできます。そのため、再契約の場面では借主の立場が弱くなります。
  2. 特約によっては借地借家法32条が使えない:定期借家で賃料改定に関する特約がある場合、32条は適用されません(借地借家法38条9項)。賃料がどう変わるかは、契約書の特約の書き方次第ということです。
  3. 「移転」を選択肢にしにくい:中途解約ができない、または敷金の没収など重い違約金が定められていることが多く、「それなら出ていく」という対応が取りにくい契約です。
  4. 賃料以外の負担も増えやすい:敷金が「賃料の○か月分」と定められていれば、賃料が上がると敷金の積み増しも必要になります。再契約時には再契約料がかかることもあります。

だからこそ定期借家では、「契約書に何が書かれているか」と「いつ動くか」が結果を大きく左右します。

 

増額の通知を受けたら:確認事項チェックリストと工程表

定期借家で増額の要請を受けたら、まず契約書と相場を確認します。ここをあいまいにしたまま話し合いに臨むと、賃貸人の主張をそのまま受け入れることになりがちです。

 

確認事項チェックリスト

契約書で確認すること

 ☐ 契約書のタイトルが「定期建物賃貸借契約」か。契約前に「更新がない」旨の説明書面を受け

       取っているか(説明がないと、更新がない旨の定めは無効になります)

 ☐ 契約期間と満了日。満了まであと何か月あるか

 ☐ 賃料改定の条項・特約(改定できる時期、「○年間は増額しない」などの定め、改定の方法)

 ☐ 中途解約の可否と予告期間、違約金や敷金没収の定め

 ☐ 敷金が賃料に連動しているか(「賃料の○か月分」など)

 ☐ 再契約の条件(再契約料の有無と金額、手続きの時期)

 

契約書以外で確認すること

 ☐ 契約時の募集資料ややり取りの記録(「○年ごとに見直し」などの前提が書かれていないか)

 ☐ これまでの賃料改定の履歴と、賃貸人が変わっていないか

 ☐ 周辺の募集事例や入居事例から見た相場(同じ階数・業種で比較できているか)

 ☐ 賃貸人が示した増額の根拠と、回答期限

 ☐ 自社拠点の収支と、移転した場合の費用

 

対応の工程表

契約期間中に通知が来た場合と、満了が近づいている場合では、動き方が異なります。

契約期間中に増額の通知を受けた場合

時期

やること

通知を受けたらすぐ

回答期限を確認し、「検討して回答する」と返信する。窓口担当者を一人に決める

1〜2週間

契約書の賃料改定特約を確認し、周辺相場と自社拠点の収支を調べる

2〜4週間

賃貸人と面談し、根拠を示して増額幅の見直しを求める。対案(改定幅・時期)も示す

合意時

新賃料、改定日、敷金の取り扱いを書面で確認する

 

契約満了(再契約)を迎える場合

時期

やること

満了12か月前ごろ(終了通知の時期)

賃貸人からの終了通知とあわせて、再契約の条件(賃料の増額など)が示されるのが一般的。通知が届いたらすぐに契約内容と相場を確認する

満了12〜6か月前

再契約するか、移転も含めて方針を決める。提示された条件に対して、根拠をそろえて協議を始める

満了6〜3か月前

提示された条件を相場・移転先候補と比べ、条件の見直しを求める

満了3か月前〜満了

再契約の書面と再契約料などの金額を確認して締結する

 

※期間1年以上の定期借家では、賃貸人は満了の1年前から6か月前までに契約終了の通知をする必要があります(借地借家法38条6項)。再契約時の賃料の増額も、この終了通知とあわせて示されるのが基本です。通知が届いたらすぐに動き始め、満了までの期間を協議に充てることが、交渉の余地を残すポイントです。

 

契約期間中の増額要請への対処法

契約期間中の増額は、契約書の賃料改定特約の範囲内での話し合いになります。定期借家でも、特約が「協議のうえ改定する」という定めであれば、賃貸人の提示額をそのまま受け入れる必要はありません。

対処のポイントは次のとおりです。

  • 通知を放置しない:返答しないままだと、回答期限付きの書面が届くなど、話し合いの入口で不利になります。
  • 「新規の相場」と「契約中の賃料」を分けて考える:賃貸人は新しく募集した場合の賃料を根拠にすることが多いですが、契約中の賃料を一度にそこまで引き上げるのが妥当とは限りません。
  • 業種・業態に合った相場で比べる:同じエリアでも、飲食店と物販店、オフィスでは賃料水準が異なります。
  • 対案を示す:「応じられない」だけでは話し合いが進みません。根拠に基づいた改定幅をこちらから提示します。
  • 付随する条件も確認する:敷金の積み増しや、改定日を過去にさかのぼらせるかどうかも合意の対象です。

【事例】契約期間中の20%増額要請を5%に抑制(A社)

・業態:高級品の販売店(繁華街の路面店、1・2階部分 約100坪)

・契約:定期建物賃貸借契約(期間4年)

・賃貸人の要望:月額300万円 → 360万円(+20.0%)

・結果:月額315万円(+5.0%)

・抑制額:月額45万円、年間540万円(税抜)

・期間:面談から回答まで約1週間

 

経緯

A社様の契約には「契約開始から2年間は増額しない、その後は協議」という特約があり、募集時の資料にも「2年に1回賃料を見直す」と記載されていました。2年が経つ直前に賃貸人からメールで増額の打診がありましたが、社内で対応が止まっているうちに、回答期限付きの書面が郵送で届きました。その段階でレントプロにご相談をいただきました。

賃貸人は、「本件の賃料は近隣の1階店舗の相場より2〜3割低く、増額には正当性がある」と主張していました。

対応

レントプロでは、契約書と周辺相場を確認し、次の3点を根拠資料として整理しました。A社様はこの資料をもとに、賃貸人との面談で増額幅の見直しを求められました。

  1. 契約から2年での見直しとして、20%の引き上げは過大であること
  2. 相場は業種・業態によって異なり、物販店としては現在の賃料も適正な水準であること
  3. 開店から2年で、店舗はまだ収益化の途上にあること

あわせてA社様から、根拠に沿った改定幅として「5%程度」という対案を提示しました。その結果、賃貸人から月額15万円(+5%)の増額とする回答を得ました。

なお、敷金は「賃料の10か月分」と定められていたため、賃料の改定にあわせて150万円の積み増しが必要になりました。改定日は「2年ごとの見直し」の時期にさかのぼって適用されています。A社様は、こうした付随条件も契約書の内容を確認したうえで合意されています。

担当者所感

契約期間中の増額は、特約が「協議」となっている限り、根拠を示せば話し合いの余地があります。一方で、本件は満了時に再契約をするかどうかが未定で、満了の1年〜半年前を目安に改めて協議する予定です。定期借家では、今回の増額への対応とあわせて、満了時を見据えた準備も欠かせません。

 

契約満了(再契約)時の増額要請への対処法

再契約は「新しい契約」なので、賃貸人は賃料を含めた条件を自由に提示でき、条件が合わなければ再契約しないこともできます。借主が断れば、契約満了で退去することになります。契約期間中と比べて、借主の交渉力は大きく下がるのが現実です。

そのため、再契約時の増額への備えは「どれだけ早く準備を始めるか」で決まります。

  • 終了通知が届いたら、すぐに動く:再契約の条件は、満了1年前ごろの終了通知とあわせて示されるのが基本です。そこから満了直前まで動かずにいると、話し合う時間がほとんど残りません。
  • 移転先の候補を持っておく:「他の物件も検討している」という選択肢があるかどうかで、話し合いの姿勢が変わります。
  • 提示された賃料を相場と比べる:相場の範囲内の増額であれば、受け入れて再契約することも合理的な判断です。相場を大きく超える場合は、根拠を示して見直しを求めます。
  • 段階的な引き上げを提案する:一度に引き上げるのではなく、再契約後に段階的に近づける案も、時間に余裕があれば提示できます。
  • 再契約料などの付随費用も確認する:請求額が契約の定めどおりかを必ず確かめます。

【事例】再契約時の20%増額。直前のご相談で抑制に至らず(B社)

・用途:事務所(都内の駅前ビル2階、約35坪)

・契約:定期建物賃貸借契約(期間2年)を再契約で約10年継続。

            この間、賃料は据え置き

・賃貸人の要望:月額491,524円 → 590,909円(+20.2%)

・結果:要望どおりで再契約

・ご相談の時期:契約満了の約3週間前

 

経緯

B社様は、期間2年の定期借家を再契約しながら約10年入居しており、その間の賃料は据え置かれていました。ある再契約の際、賃料を約20%引き上げた再契約書が送られてきたため、レントプロにご相談をいただきました。ただし、その時点で契約満了までは約3週間しかありませんでした。

対応

レントプロでは契約内容と周辺相場を確認し、B社様はそれをもとに、賃貸人側の窓口である管理会社に再契約の意向を伝えたうえで、増額幅の見直しを求められました。しかし、「現在の相場水準であり、賃貸人に譲歩する意向はない」との回答でした。

満了が目前に迫っていたこと、協議を続けると賃貸人が再契約そのものを取りやめるおそれもあったことから、B社様は増額を受け入れて再契約することを優先されました。

担当者所感

新しい賃料は坪単価で約16,900円で、周辺の募集事例(坪15,600〜18,200円程度)の範囲内でした。長年据え置かれていた分、引き上げ幅が大きくなったといえます。

もう少し早く、例えば満了の6ヶ月前にご相談いただけていれば、段階的な引き上げや移転との比較など、選べる手があった可能性があります。定期借家の再契約では、「満了が近づいてからでは遅い」ことを示す事例です。

 

よくあるご質問

Q.定期借家でも、増額の要請を断ることはできますか?

A.契約期間中は、契約書の賃料改定特約の内容次第です。「協議のうえ改定する」といった定めであれば、提示額をそのまま受け入れる必要はありません。一方、再契約時は賃貸人が条件を自由に提示できるため、断ると再契約できない可能性があります。

Q.自社の契約が定期借家かどうか分かりません。

A.契約書のタイトルや、「更新がない」という定めがあるかを確認してください。契約前に更新がない旨の説明書面を受け取っていない場合など、定期借家としての定めが有効かどうかが問題になることもあります。判断に迷う場合は、契約書をご用意のうえご相談ください。

Q.費用はかかりますか?

A.レントプロの賃料増額阻止のサポートは成果報酬型です。詳しい条件はよくある質問をご覧いただくか、お問い合わせください。

 

定期借家の増額は、「早めのご相談」が何よりの対策です

定期借家の増額への対応は、契約期間中であれば「特約の確認と根拠を示した話し合い」、満了時であれば「早めの準備」がカギです。A社様のように根拠をそろえて臨めば増額幅を抑えられたケースがある一方、B社様のように満了直前では打てる手が限られます。

レントプロでは、契約書の特約の確認や周辺相場の調査から、賃貸人との協議に向けた資料づくり、合意内容を書面に残すまでを一貫してサポートします。特に、近隣の入居事例や募集事例といった相場情報は、社内だけでは集めることが難しい情報です。レントプロでは、これまでに蓄積した事例と調査をもとに、話し合いの根拠となる資料を整えます。法律の専門的な対応が必要な場合は、提携する専門家と連携します。なお、最終的な賃料は賃貸人との合意で決まるため、結果をお約束するものではありません。

増額の通知が届いた方はもちろん、定期借家の満了が1年以内に迫っている方も、まずはお気軽にご相談ください。

あわせて読みたい記事

出典